すとーる・まーじん

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アフターバーナ技術について(1)

 今回は2回に分けてジェットエンジンの推力増強装置「アフターバーナ」について述べようと思う。初回はその歴史、原理、構成品とその形式につ いて、次回は代表的なアフターバーナについて考察を行う。

 

アフターバーナの歴史

 さて、アフターバーナはジェットエンジンの推力増強装置として幅広く知られているが、その歴史は古く、第2次大戦まで遡る。 1938年、航空機史上ついにジェットエンジンを有する航空機「He178(ドイツ)」が登場し、Me262(ドイツ)、ミーティア(イギリス)が第2次大戦に参加したが、アフターバーナはこれらとほぼ同時期にJumo004E(ドイツ)、GE-1A with AB(アメリカ)として研究が開始されている。これらの研究は第2次大戦には間に合わなかったが、戦後世界中がジェットエンジンの有効性を認識し、航空機の更なる高速化のためにアフターバーナの研究は活発化することになる。1950年代にはNACAで次々に研究が行われNACA RMに関するレポートが公開された。NACAでは後述するフレームホルダについて様々な形状をジェットエンジン高空試験装置を用いて評価を行っている。ジェット機が次々に音速を超えはじめるとアフターバーナは必須の技術となり、かつては運行されていた超音速旅客機コンコルド、そして今日でも戦闘機では必要不可欠な機能となっている。わが国では戦後の航空関連研究禁止解除後、ターボジェットエンジンJ3を用いてアフターバーナの基礎的試験を行った。その後、IHI-17エンジン、XF3-400エンジンを経て、先進技術実証機に搭載されているXF5-1エンジンにつながっている。

  世間一般的にアフターバーナという呼び名はジェットエンジンの推力増強装置として伝わるが、各エンジンメーカによってオーグメンタ、リヒータとも呼称する。本稿ではJIS表記に従い、「アフターバーナ」と呼称する。アフターバーナの原理はジェットエンジンのタービンセクションを通過した未燃の酸素を含む燃焼ガス(ターボファンではバイパス流も含む)に対して燃料を再度投入し、推力を増強するものである。ジェットエンジンの推力は簡単にはエンジンを通過する空気流量(燃料を含む)×排出するジェットの速度であり、アフターバーナを作動させることによりアフターバーナ内部の温度が上昇するとジェット速度も増加し、結果としてエンジンの推力は上昇する。さらにアフターバーナにはタービン部が存在しないので材料の温度限界をあまり考慮することなく温度を上昇させることが出来、非常に大きな推力(通常、ドライ推力の1.5~2.0倍)を得ることができる。ただし、燃焼器の燃料流量に比べると非常に大量の燃料を消費するため、離陸時や音速を突破する場合、戦闘行動等の限られた場合のみに使用される。アフターバーナの排気ジェット速度による住宅街への騒音(騒音はジェット速度の8乗に比例する)も問題となっており、むやみやたらに使用することはできない。

 また、アフターバーナには可変ノズルは必須の要素である。これはアフターバーナが燃焼ガスの温度と共にジェット速度を上昇させるが、同時に燃焼ガスの密度を小さくしてしまうため、ノズルを通過させる燃焼ガス流量を維持するためにはノズル面積を調整しなければならないためである。仮に調整しない場合はノズルより上流の密度が上昇、即ち圧力が上昇してしまい、エンジンの作動状態が変化する。可変ノズルとしては高高度高速を飛行する飛行機向けにはノズルの形状はガスの膨張を有利にする所謂コンバージェントダイバージェントノズルが一般的であるが、低高度低速ではノズル部分の重量がかさむだけであり、コンバージェントノズルのエンジンや、アフターバーナを有さないエンジンでは固定式のノズルも採用されている。現在ではF-22のような2次元矩形可変ノズル、Su-35等の3次元推力偏向ノズルも実用化されている。アフターバーナ作動時の推力は可変ノズルを適切に作動させた場合はアフターバーナ燃焼ガス温度の平方根におおよそ比例するが燃焼の観点からは2000℃程度で頭うちとなる。

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図1 アフターバーナ基本構成図
(F100エンジンの例)

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図2 F100エンジン断面図

 

アフターバーナの構成品

 一般的なアフターバーナの構成を図1及び図2に示す。

 アフターバーナはタービンから噴き出した高速のガスをアフターバーナを燃焼させるために適当な速度まで減速させるディフューザ、アフターバーナの燃料を噴射する燃料噴射弁、再循環領域を発生させ連続的な燃料を可能にするフレームホルダ、アフターバーナを作動・着火させる点火器、燃焼を行う領域であるアフターバーナダクト、外壁を冷却するインナーライナ、そして流量を調整するノズルで構成されている。

 ここで、アフターバーナを設計するにあたって特に重要な事項をまとめる。


1.アフターバーナの燃焼効率が良いこと

 先にアフターバーナの推力は燃焼温度の平方根に比例すると述べたが、燃焼効率が悪いと投入した燃料に対してアフターバーナ内の温度が上昇せず、燃料をむやみに浪費するだけであり、十分な推力増加が得られない。そのため、追加した燃料は効率よくアフターバーナダクト内部で燃焼させなければならない。

2.フレームホルダにおいて安定して保炎できること

 タービン出口のマッハ数は通常0.5~0.8程度であり、火炎が安定して燃焼するためには0.2~0.3程度まで減速しなければならない。アフターバーナの構成品のうちディフューザがこの減速を担当しつつ、フレームホルダが再循環領域(燃焼器におけるスワラー)を発生させ、一度着火すると連続して燃焼させるようにしている(図3)。通常はアルファベットのVやUといった形状をしているが、その角度や大きさについてある程度経験的なデータがあり、あらゆる領域で安定して燃焼するかの要素試験を行いつつ、続く3の空力性能と両立させなければならない。

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図3 再循環領域の例
(白三角部がフレームホルダ)

 

3.フレームホルダ、排気ノズル等における圧力損失が小さいこと

 フレームホルダは流れ場中に障害物を設置し、再循環領域を発生させるがそれは同時に圧力損失を発生させ、エンジンの性能が低下する。2の課題と矛盾している要求である。この難しい課題について設計者は様々な形状について検討を重ね、形状を決定しなければならない。

4.軽量であり、小型であること

 これは特に難しい話ではないが、アフターバーナの燃焼を完全に完結させる長さが長いと構造上重量が嵩み、また、搭載する機体に対しても悪影響を与える。ロケットエンジンでいうところのL*的なパラメータである。

5.アフターバーナの応答性が良いこと

 これは特に戦闘機に必要な要求である。パイロットの思うようにアフターバーナの作動がコントロールできない場合は撃墜される可能性がある。近年ではほぼ全ての機種で採用されている全デジタル制御(FADEC)によって、アフターバーナの燃料スケジュール、排気ノズル、各種アクチュエータが同時に制御され、非常に良い応答性となっている。また、アフターバーナの出力にもある程度のステップが設けられ、ドライ推力から突然1.5倍推力(最大推力)にならないようにパートパワーを出力することも出来るようになっている。

 

 さらにアフターバーナはエンジン内部の空気の流れによりいくつかに分類される(図4)。所謂バイパス比ゼロのターボジェット・アフターバーナ、ターボファンエンジンのうち、バイパス側を燃焼させるダクトバーナ、コア流のみにアフターバーナを付与するコアフローアフターバーナ、バイパス流とコア流それぞれにアフターバーナを有するセパレーテッドアフターバーナ、そして最も主流であるミクスドアフターバーナである。

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図4 アフターバーナの分類の例

 

 ターボジェットアフターバーナの代表例はF-4戦闘機等に採用されているJ79エンジン、ピュアジェットとも呼ばれ構造が比較的簡単であり、容易に大推力を発生させることができる。タービンから排出される燃焼ガスの温度も非常に高く、ある程度速度を減速させると容易にアフターバーナを作動させることができるが、ターボジェットの燃費が悪いことから、近年での開発例は少ない。

 ターボファン・ダクトバーナはかつて超音速旅客機を開発していた頃に検討されていたものでエンジンから排出するガスの温度さえ高くなれば良いとの発想からバイパス側を加熱する方式である。ターボジェットと逆に比較的温度が低く、V形状のフレームホルダでは燃焼を安定させることが難しく、燃焼器と同じような複雑な形状の保炎器が必要であり、今日では採用されている機種はない。

 ターボファン・コアフローアフターバーナはエンジンのコア部(タービン排気流)のみに対してアフターバーナを作動させるものであり、ターボジェット・アフターバーナにバイパス流れが付加されたようなものである。ターボジェットと同様にアフターバーナの作動性は良い一方、ターボジェットの様にアフターバーナを作動させずとも燃費に優れており、バイパス比の非常に小さなエンジンに採用されることがある。但し、ダクト冷却に対するバイパス流との関係からアフターバーナ温度について制限がある。

 ターボファン・セパレーテッドアフターバーナはダクトバーナとコアフローアフターバーナを組み合わせたような形状であるが、コアフローアフターバーナの作動により、幾分ダクトヒータよりバイパス側を作動させることが容易である。イメージとしてはダクトヒータの複雑な燃焼器を廃しつつも、より多くの未燃の酸素が流れ込むバイパス流をアフターバーナ作動させより大きな推力増加率を狙う良い所取りである。この未燃酸素を有利に使用するためにバイパス比の比較的大きなエンジンに採用されることが多い(F110、RB199等)。

 ターボファン・ミクスドアフターバーナは今日最も幅広く採用されている方式であり、バイパス流とタービン部から排出されたガスを混合させ、そのガスに対してアフターバーナを作動させるものである。バイパス流の低温空気もタービン部の空気と混ざることで高温になり、アフターバーナを作動させ易い条件が揃う。F100等幅広く採用されている。ミクスドアフターバーナのフレームホルダのバイパス側をやや上流に設置することで、セパレーテッドアフターバーナになるが(図5)F110のようにお互いの作動を助け合う場合もあり、機械的に区別することは難しい。

 

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図5 F110のフレームホルダ部

 

 以上、今回はアフターバーナの簡単な歴史と原理、構成品と構成について述べたが、次回は実際の機種・構成品について適用されている技術について考察を行う。(つづく)

 

 

参考文献

 航空エンジン事業部「アフターバーナの基礎研究」、石川島播磨重工技報、1970

 船木他「アフターバーナの研究(第1報)から(第3報)」、防衛庁第3研究所技報、1975

 佐藤他「最近のジェット・エンジン アフターバーナ技術(1)」、航空技術No.360