すとーる・まーじん

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インテーク技術(F-16編)

F-2についている謎の棒」がちょっと話題になったのでF-2の空力的原型のF-16のインテークについてまとめる。

 

F-16に求められたもの

 F-16は世界中で幅広く運用され戦闘機としてはベストセラーの部類に入る。そのプロトタイプとしてYF-16の開発は1960年代より開始されたが、それを始めとしたLWF(軽戦闘機)については多くの書籍や報告書があることから本記事ではインテークのみについてまとめる。F-16の開発にあたり、その機体に要求されたものは、下記のとおりである。

亜音速遷音速(マッハ1.6)における優れた優位性
・マッハ2への一時的な加速能力
・軽量であり、かつ、コストに優れること
・高G性能及び高α性能に優れ、かつ、優れた総圧回復率を有すること

 

 機体空力設計陣はこれらの要求を踏まえ、機体のパフォーマンスを決定づける推進系統の要求を下記のように考えた。

・幅広い飛行領域で優れた総圧回復率を有し、かつ、スピレージ抵抗を極限に抑える
・マッハ2への加速能力を有する
・性能を満足した上で最小限の重量を実現し、低価格につなげる
・重量及びコストの観点から可能な限り簡素なシステムにすると同時に高信頼性を確保する
・高G及び高α時のディストーション耐性を有する

 

 総圧回復率とは機体がインテーク(インレット)からエンジンに導かれる間において速度を低下させ圧力を回復させる効率の指標であり、高い総圧力回復率である程、優れたインテーク性能となる。スピレージ抵抗とはインテークが吸い込む空気と、エンジンが必要とする空気のミスマッチからインテークの縁において空気を吸い込めずあふれる(スピレージ)ことにより発生する損失のことである。
 マッハ2への加速能力を考慮する上では、衝撃波の影響、総圧回復率、インテークがどれほどの空気を吸い込めるかという検討をせねばならず、マッハ2への加速能力を有するとは亜音速遷音速(マッハ1.6)の性能を下げることになりかねないものとなる。特に超音速の航空機では高いマッハ数まで飛行可能であるようにインテークに可変機構を設けているものや、衝撃波をうまく処理するためのスパイクといった空力デバイスが設けられることが多い。しかしながら、これらの採用は重量及びコストが増加すると共に、可動機構により機械的な不具合等の可能性が増加し、信頼性が低下する問題がある。
 高G及び高α性に優れるとは、戦闘機は格闘戦等を行う際に機首を上げたり、横滑りを起こすが、その際、インテークには機体そのものの進行方向からずれてインテークに空気が入ってくる。インレットに入った際のこの空気の分布(圧力の分布)を圧力ディストーション(または単にディストーション)と呼び、エンジンの作動に悪影響を与えることが知られている。高G性能及び高α性能に優れるとは、このディストーションをいかに抑えつつ、かつ、ディストーションに対して強いエンジンをつくるかがキモとなる。

 

F-16(YF-16)のインテーク

 それではF-16(YF-16)がこれらの課題についてどのよう工夫を行ったかについて述べる。図1はYF-16に採用されているインテーク周辺技術である。(写真は試作1号機)

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図1 YF-16のインテークの特徴(F-16もほぼ同様)

  

①ノーマルショックインテーク(NSI)を採用
 超音速インテークの圧力回復方法には外部圧縮法、内部圧縮法、混合圧縮法があるがF-16のそれは外部圧縮法を採用しており、超音速飛行時には機首等で発生した衝撃波は複数回の外部圧縮が行われインテーク入口のマッハ数は0.7~0.8となっている。つまり、インテークからエンジンまでのダクト間は亜音速ディフューザとなっており、全域に渡って亜音速、圧力は上昇傾向にある。これにより複雑な可変機構を有することなく、軽量化及び低コスト化を実現し、高い信頼性も併せ持つ。

②高L/Dダクトの採用
 デュフューザ効果を効率的に行なうため、可能な限り穏やかに通過断面積を増加させ、乱流の発生、剥離の発生を抑制し、高い圧力回復率を実現している(図2)。インテーク入口(スロート)からエンジン入口までの距離とエンジン入口直径の比は約5.4も取られている。

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図2 高L/Dダクトとマッハ数・面積分

 

③胴体下部インテーク(アンダーインテーク:Under belly intake)
 胴体の下部にインテークを配置することで、幅広い機体姿勢エンベロープのαとβに対して一様流を得ることができるとともに、「機体シールド効果」によりαに対して優れたメリットがある。

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図3 インテーク配置の違いによる局所αの変化

  

 図3は3つの異なるマッハ数に対してノーズインテーク、サイドインテークとアンダーインテークの機体の迎え角αとインテーク入口の局所αを比較したものであるが、アンダーインテークは機首の流れの影響により機体のαに対してインテークのそれは小さくなる(図4)、即ち相対的に小さなディストーションになることを表している。

 

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図4 アンダーインテークの定性的な流れ

 

④スプリッタープレート
 スプリッタープレートはインテークの縁から機首前方方向に向かって飛び出た片持ち構造の板(プレート)であり、これにより胴体の境界層の剥離により発生した衝撃波がインテークに影響を与えることを抑制することが可能となり、インテークの作動を安定させ、高総圧力回復率に寄与している。

⑤ダイバータ
 粘性を有する気体の中を物体が移動すると物体の表面からある程度の距離(極めて小さい)には速度の小さい「境界層」と呼ばれる流速分布が発生する。この境界層はエネルギーそのものが小さいことと、境界層の剥離により、衝撃波が発生する等、高速で移動する物体には悪影響を与える。そのため、航空機ではこの境界層が存在する領域あるいは境界層により影響を受けている領域に間を設けるダイバータと呼ばれる機構を採用している。近年ではステルス性の観点からインテークの形状を工夫し、境界層を抑制したダイバータレスインテーク(DSI)もある。

⑥インレットストラット
 エンジン制御用のセンサー、空力デバイスと認識されることが多いが、流線型をしたストラットであり、機体の構造物である。このインレットストラットの目的はインテークの変形を抑制することにある。インテーク~ダクトは軽量であり、一方で長い構造物であるため、ダクト内部の圧力回復、機体α等によって特にインテーク下部、ダクト下部が変形する可能性がある。この変形を抑制するために、インテーク上部構造物から、下部を支える形でインレットストラットを採用している。このインレットストラットは、インテークが亜音速ディフューザであることと、高L/Dダクトであることから、空力的な影響はなく、かつ、軽量で効果のある方法として採用された。我が国のF-2戦闘機にも同様のインレットストラットが存在するがその理由は同じである。

⑦ブラントリップ
 アンダーインテークの効果によりF-16のインテークは機体のαに対して相対的に小さなインテーク局所αを得ることができている。そのため、幅広いαに対応するためにインテーク下部の丸みを大きくする必要がなく(剥離が相対的に小さくすむため)、インテークサイズの最小化に寄与している。仮にサイドインテークの場合は、αに対して剥離が大きくなり、また、そのために必要な空気を得ることができないことからインテークとエンジンのミスマッチが発生し、スピレージ抵抗が増大する可能性もある。

⑧ガンポート配置
 アンダーインテークを採用することにより、ガンの発砲ガスをエンジンが吸い込む可能性がない。(エンジンが火気ガスを吸い込むと相対的に酸素が減り、性能が低下する)

⑨ノーズギア配置
 ノーズギアをインテークの後方に配置することにより、例えば地上滑走時の車輪による異物巻き上げを防止しFODを抑制している。

 

◆インテーク風洞試験

 これまでに述べた特徴を有するYF-16のインテークは13か月200回余の風洞試験が行われた。風洞試験は大きく3つのシリーズで行われた。先ずインテークと機首形状、ダイバータ幅、ブラントネス(ブラントリップの感度)の確認。次にこれらの結果から候補を絞り込み風洞試験、最後に実際に採用した機体形状の試験である。風洞試験は1971年末から開始され、僅か13か月でこれら3シリーズの試験を完了させ、その後1974年2月の公式初飛行という今では戦闘機開発としては非常に速いスピードで行われた。風洞試験の結果については参考文献[1]を参照されたい。

 

◆インテークの構造

 F-16のインテークでもう一つ面白い技術があるが、それはモジュール構造の採用である(図5、6)。F-16の設計陣は現在の要求はF100エンジンによるマッハ1.5級の戦闘機であるがエンジン性能のさらなる向上、より高速飛行の要求があった際に備えて、インテーク先端から約90インチをモジュール構造とした。これにより、インテークのキャプチャ面積・通過断面積を拡張することができ、約10%の空気流量の増加に対して、ダクトの一部分を交換することで対応できる。実際に、後年F100エンジンからF110エンジンに換装された際は設計陣の先見の明により、このモジュール構造を変更するのみで対応でき性能向上型に繋がった(図7)。因みにこのインテークモジュールの先端の部分にインレットストラットが装着されており、片持ち構造を解消していることがわかる。

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図5 モジュール構造

 

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図6 モジュール構造

 

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図7 F100用インテーク(上)、F110用インテーク(下)

 

◆まとめ

 F-16はその他のメーンコンポーネント、サブコンポーネントにも様々な工夫がなされており、世界的ベストセラーの戦闘機へと成長したが、インテークひとつとっても工夫が随所にみられることがわかる。F-16は現在もアップデートされつづけており、また、F-35の開発の際にはテストベット、サポート機になる等、初飛行から50年近く経ってもそのポテンシャルの高さを示している。ステルス、データリンク等の登場により戦闘の様相が変わったとはいえ、戦闘機の開発には明確な目標が必要であるように思う。

 最後に、F-2のインテークは機首形状とエンジンの性能向上により若干形状は違うものの、ほとんどF-16のそれを踏襲したデザインとなっている。

 

参考文献

 [1]J.E. Hawkins, "YF-16INLET DESIGN AND PERFORMANCE", AIAA Paper 74-1062, 1974

 H.J. Hillaker et al, "Design Concept and Rationale for YF-16", Lockheed Paper , 1972

 E.L. Goldsmith et al., "Practical Intake Aerodynamic Design", AIAA Education Series , 1993

美唄円形校舎探索(沼東小学校跡)

 前から気になっていた北海道は美唄市にある円形校舎(旧沼東小学校)に行ってきました。小学校までのアクセスが面倒であったので備忘メモ的なものを。

 

アクセス

 美唄市内の方から道道135号を東へ進み三菱美唄記念館まで進む(図1)。美唄国設スキー場(既に廃業)の隅っこに車を止め、地図を眺める。地図を見るに先に橋を渡ってしまうのも手だが民有地であるため、断念する。衛星写真をよくよく眺めると遠回りではあるが、端を渡らずに突き進むと森の奥に橋がある(図2)。図2中の黄色矢印図3から入る。

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図1 道道135号から三菱美唄記念館へ

 

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図2 アクセスを考える

 

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 図3 ここから入る

 

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 図4 図2中の橋を折り返したあたり

 

 想像はしていたが夏真っ盛り、当然やぶである。図4のようなやぶを突き進む。今回は非常に軽装で来てしまったが、長袖長ズボンはもちろんのこと、ぬかるんでいる箇所もあるため、軍手、長靴(ブーツ)は必須である。そんなこんなで円形校舎にたどり着く。森の中にひっそりと佇む校舎は素敵だった。昔の子供たちはどういう経路で通学していたのだろう…。

 円形校舎

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おまけ。羽幌炭鉱跡(図5、図6)とオトンルイ風力発電機群も見てきました。前回は夕暮れの曇り空だったのでこれこそ夏の北海道のような天候に恵まれてよかった。

羽幌炭鉱

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オトンルイ風力発電機群

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Wonder Festival 2017

 ワンフェス2017に出店しました。初のイベント参加ということもあり、経緯、当日の記録等をまとめようと思う。

 

製作の経緯

 博物館や資料館でロケットエンジンジェットエンジンの模型を時折みかけるが実は長いことそれが欲しかった。ウッドモデルやレシプロエンジンのキット、契約者モデルの情報はちらほらとあったが世の中に幅広く普及している模型は無いようであった。「無ければ作らなければならない」と久しぶりに創作意欲が湧いたのが昨年の11月末。

 

  

 どのエンジンをつくろうかといろいろと思案していたところ、友人らの希望もありロシアのRD-180に行きあたる(複数発エンジンってかっこいいよね)。ちょうど年が明け、2017年の目標のひとつをガレージキットの一大イベント「Wonder Festivalに参加する」ことにする。

 

 

 ここでRD-180ロケットエンジンについて簡単に説明すると、ロシア(ソ連)が開発した名作エンジンRD-170のエンジン数の4を半分の2にし、小型のロケットへの適用を目指したエンジンである。但し現時点ではロシアのロケットに搭載される予定はなくアメリカのロケットに供給されている。

 

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図1 エネルゴマシュ社に展示されるRD-180

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図2 RD-180正面図・側面図

 

製作開始

 さて、モデルをつくるためには先ずは情報収集を実施する必要がある。RD-180のスペック的な情報はある程度あるが、その寸法、細部仕様についての情報は限られていた。アトラスロケット(RD-180搭載)のユーザーズマニュアルや公式写真を元に形状や配管経路を割り出していった。また5月の連休にエネルゴマシュ社の展示室に実際に行かれた方(@Kei_Kei_Twi様)に写真提供を頂き、不明だったターボポンプ周りの取り回しに関する情報を入手し、原型データが完成した。寸法についてはディスプレイの観点から全高160mm程とし、ノンスケールとした。モデリングはCADソフトを用い、ほぼ全ての基礎部品をDMM 3Dプリントにてナイロン出力(一部アクリル)し、表面処理を行なう方針とした(図3)。また、複雑な一部原型とハメアイについては手仕上げを行った。表面処理にあたってはTuneD3のBASICキットで荒→細→ブルーとして処理を行った。

 

store.shopping.yahoo.co.jp

 

 ナイロン焼結の原型は安価でありTuneD3で比較的きれいな表面になるものの、細部造型、曲面については圧倒的にアクリルが加工しやすく、大きな形状でなくかつ金銭的に余裕があればアクリルを強く推奨する(ナイロンは毛羽立ち、原型には不向き)。

 

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図3 原型が出そろいイメージを膨らませている様子

  

 シリコン原型がほぼ完成したところでシリコンを鋳込む。学生時代に少しレジンに触って以来10年ぶりぐらいの素人である。見よう見まね、取説に従い、シリコンをつくるもよくよく考えればヘッドと圧力損失からレジン注入経路、ガス抜き経路はしっかりデザインする必要があるが、早速失敗をする。しかたがなく、圧縮空気を使用し、加圧成型を行い、以降これがほぼ全ての複製の基準となる(図4)

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図4 重力注入(左) 加圧成型(右)

 

  原型を出力し、表面処理を行い、シリコン原型がほぼ完成したところでシリコンを鋳込む。学生時代に少しレジンに触って以来10年ぶりぐらいの素人である。見よう見まね、取説に従い、シリコンをつくるもよくよく考えればヘッドと圧力損失からレジン注入経路、ガス抜き経路はしっかりデザインする必要があるが、早速失敗をする。しかたがなく、圧縮空気を使用し、加圧成型を行い、以降これがほぼ全ての複製の基準となる。原型磨きとシリコン型取りを経て1号機の完成が7月21日、イベントの1週間前であった(図5)。この段階から製品用複製作業を行い、イベントに間に合ったキットは展示品を含め4セットのみであった(図6)。

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図5 完成展示品

 

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図6 販売パッケージ

 

  展示品の最後にディスプレイスタンドと銘版、デカールについて述べる。試作品のディスプレイスタンドは川合木工所のP-7を採用した(販売パッケージにはヒノキ削出を採用している)。川合木工所の飾り台はアガチスという木材を採用しており、密度は小さく、粘り気があることから加工は丁寧に行う必要があるが、問題は着色であった。エンジンモデルの台座は当初からレトロ感のある木材にしようと考えており、木材の着色としては先ずはウッドオイル&ニスが思い浮かび、早速施工を行った(図7)。表面処理が甘かったか、ニスの塗装がイマイチであり、いろいろ調べた結果、ブライワックスを使用することにした(図8)。このブライワックスは木目が美しく表現され、かつ、レトロな雰囲気に仕上がったことから試作品にはこれを採用することとした。

 

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図7 川合木工所P-7(下) ウッドオイル&ニス施工(上)

 

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図8 ウッドオイル&ニス施工(上) ブライワックス(下)

 

 銘版については飾り台をフライス盤でややザグリ、真鍮→透明シート→アクリルの構成として埋め込みを表現したが割合うまく行ったように思える。デカールについてはハイキューパーツのクリアデカールをセブンネットで印刷することとし、今回は原型の3D出力を除き、全て自作の運びとなった。銘版の白色、デカールの白色が表現できないことから、さらに量産する場合はデカールメーカへの外注を検討する。

 

当日の備忘録とか

 イベントは日曜日開催であり、土曜日から事前受付を行っていることを踏まえ土曜日入りとした。土曜日の1930まではスペースの設営、ディーラー受付を行い当日は0900までに入場した(0830頃には現地についた方が良いようである)。初参加にも関わらず誕生日席となり、緊張する中、当日を迎える。

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図9 ディーラースペース

 

 1000の開場拍手と共にWonder Festival2017夏が開幕。緊張で縮こまっていると早速お客様が手にとって戴き、それからも次々とスペースに来て戴き初参加の素人作品にも関わらず無事に完売しました(図10)。完売した後も「Twitterで見ました」とか「おもしろいですね」とかすごく興味を持って戴きいろんな方と交流でき、あっという間に閉会を迎えました。量産を希望される方が多く、こちらはこつこつと進めていますので、再販時には告知したいと思います。

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図10 完売しました(展示キットと共に)

 

 ニッチな産業にはすごくおもしろい反応をされて半年こつこつとやってきた疲れが一気に飛びとても楽しいイベントになりました。新作キットも検討しており、今後ともよろしくお願いします。

アフターバーナ技術について(1)

 今回は2回に分けてジェットエンジンの推力増強装置「アフターバーナ」について述べようと思う。初回はその歴史、原理、構成品とその形式につ いて、次回は代表的なアフターバーナについて考察を行う。

 

アフターバーナの歴史

 さて、アフターバーナはジェットエンジンの推力増強装置として幅広く知られているが、その歴史は古く、第2次大戦まで遡る。 1938年、航空機史上ついにジェットエンジンを有する航空機「He178(ドイツ)」が登場し、Me262(ドイツ)、ミーティア(イギリス)が第2次大戦に参加したが、アフターバーナはこれらとほぼ同時期にJumo004E(ドイツ)、GE-1A with AB(アメリカ)として研究が開始されている。これらの研究は第2次大戦には間に合わなかったが、戦後世界中がジェットエンジンの有効性を認識し、航空機の更なる高速化のためにアフターバーナの研究は活発化することになる。1950年代にはNACAで次々に研究が行われNACA RMに関するレポートが公開された。NACAでは後述するフレームホルダについて様々な形状をジェットエンジン高空試験装置を用いて評価を行っている。ジェット機が次々に音速を超えはじめるとアフターバーナは必須の技術となり、かつては運行されていた超音速旅客機コンコルド、そして今日でも戦闘機では必要不可欠な機能となっている。わが国では戦後の航空関連研究禁止解除後、ターボジェットエンジンJ3を用いてアフターバーナの基礎的試験を行った。その後、IHI-17エンジン、XF3-400エンジンを経て、先進技術実証機に搭載されているXF5-1エンジンにつながっている。

  世間一般的にアフターバーナという呼び名はジェットエンジンの推力増強装置として伝わるが、各エンジンメーカによってオーグメンタ、リヒータとも呼称する。本稿ではJIS表記に従い、「アフターバーナ」と呼称する。アフターバーナの原理はジェットエンジンのタービンセクションを通過した未燃の酸素を含む燃焼ガス(ターボファンではバイパス流も含む)に対して燃料を再度投入し、推力を増強するものである。ジェットエンジンの推力は簡単にはエンジンを通過する空気流量(燃料を含む)×排出するジェットの速度であり、アフターバーナを作動させることによりアフターバーナ内部の温度が上昇するとジェット速度も増加し、結果としてエンジンの推力は上昇する。さらにアフターバーナにはタービン部が存在しないので材料の温度限界をあまり考慮することなく温度を上昇させることが出来、非常に大きな推力(通常、ドライ推力の1.5~2.0倍)を得ることができる。ただし、燃焼器の燃料流量に比べると非常に大量の燃料を消費するため、離陸時や音速を突破する場合、戦闘行動等の限られた場合のみに使用される。アフターバーナの排気ジェット速度による住宅街への騒音(騒音はジェット速度の8乗に比例する)も問題となっており、むやみやたらに使用することはできない。

 また、アフターバーナには可変ノズルは必須の要素である。これはアフターバーナが燃焼ガスの温度と共にジェット速度を上昇させるが、同時に燃焼ガスの密度を小さくしてしまうため、ノズルを通過させる燃焼ガス流量を維持するためにはノズル面積を調整しなければならないためである。仮に調整しない場合はノズルより上流の密度が上昇、即ち圧力が上昇してしまい、エンジンの作動状態が変化する。可変ノズルとしては高高度高速を飛行する飛行機向けにはノズルの形状はガスの膨張を有利にする所謂コンバージェントダイバージェントノズルが一般的であるが、低高度低速ではノズル部分の重量がかさむだけであり、コンバージェントノズルのエンジンや、アフターバーナを有さないエンジンでは固定式のノズルも採用されている。現在ではF-22のような2次元矩形可変ノズル、Su-35等の3次元推力偏向ノズルも実用化されている。アフターバーナ作動時の推力は可変ノズルを適切に作動させた場合はアフターバーナ燃焼ガス温度の平方根におおよそ比例するが燃焼の観点からは2000℃程度で頭うちとなる。

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図1 アフターバーナ基本構成図
(F100エンジンの例)

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図2 F100エンジン断面図

 

アフターバーナの構成品

 一般的なアフターバーナの構成を図1及び図2に示す。

 アフターバーナはタービンから噴き出した高速のガスをアフターバーナを燃焼させるために適当な速度まで減速させるディフューザ、アフターバーナの燃料を噴射する燃料噴射弁、再循環領域を発生させ連続的な燃料を可能にするフレームホルダ、アフターバーナを作動・着火させる点火器、燃焼を行う領域であるアフターバーナダクト、外壁を冷却するインナーライナ、そして流量を調整するノズルで構成されている。

 ここで、アフターバーナを設計するにあたって特に重要な事項をまとめる。


1.アフターバーナの燃焼効率が良いこと

 先にアフターバーナの推力は燃焼温度の平方根に比例すると述べたが、燃焼効率が悪いと投入した燃料に対してアフターバーナ内の温度が上昇せず、燃料をむやみに浪費するだけであり、十分な推力増加が得られない。そのため、追加した燃料は効率よくアフターバーナダクト内部で燃焼させなければならない。

2.フレームホルダにおいて安定して保炎できること

 タービン出口のマッハ数は通常0.5~0.8程度であり、火炎が安定して燃焼するためには0.2~0.3程度まで減速しなければならない。アフターバーナの構成品のうちディフューザがこの減速を担当しつつ、フレームホルダが再循環領域(燃焼器におけるスワラー)を発生させ、一度着火すると連続して燃焼させるようにしている(図3)。通常はアルファベットのVやUといった形状をしているが、その角度や大きさについてある程度経験的なデータがあり、あらゆる領域で安定して燃焼するかの要素試験を行いつつ、続く3の空力性能と両立させなければならない。

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図3 再循環領域の例
(白三角部がフレームホルダ)

 

3.フレームホルダ、排気ノズル等における圧力損失が小さいこと

 フレームホルダは流れ場中に障害物を設置し、再循環領域を発生させるがそれは同時に圧力損失を発生させ、エンジンの性能が低下する。2の課題と矛盾している要求である。この難しい課題について設計者は様々な形状について検討を重ね、形状を決定しなければならない。

4.軽量であり、小型であること

 これは特に難しい話ではないが、アフターバーナの燃焼を完全に完結させる長さが長いと構造上重量が嵩み、また、搭載する機体に対しても悪影響を与える。ロケットエンジンでいうところのL*的なパラメータである。

5.アフターバーナの応答性が良いこと

 これは特に戦闘機に必要な要求である。パイロットの思うようにアフターバーナの作動がコントロールできない場合は撃墜される可能性がある。近年ではほぼ全ての機種で採用されている全デジタル制御(FADEC)によって、アフターバーナの燃料スケジュール、排気ノズル、各種アクチュエータが同時に制御され、非常に良い応答性となっている。また、アフターバーナの出力にもある程度のステップが設けられ、ドライ推力から突然1.5倍推力(最大推力)にならないようにパートパワーを出力することも出来るようになっている。

 

 さらにアフターバーナはエンジン内部の空気の流れによりいくつかに分類される(図4)。所謂バイパス比ゼロのターボジェット・アフターバーナ、ターボファンエンジンのうち、バイパス側を燃焼させるダクトバーナ、コア流のみにアフターバーナを付与するコアフローアフターバーナ、バイパス流とコア流それぞれにアフターバーナを有するセパレーテッドアフターバーナ、そして最も主流であるミクスドアフターバーナである。

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図4 アフターバーナの分類の例

 

 ターボジェットアフターバーナの代表例はF-4戦闘機等に採用されているJ79エンジン、ピュアジェットとも呼ばれ構造が比較的簡単であり、容易に大推力を発生させることができる。タービンから排出される燃焼ガスの温度も非常に高く、ある程度速度を減速させると容易にアフターバーナを作動させることができるが、ターボジェットの燃費が悪いことから、近年での開発例は少ない。

 ターボファン・ダクトバーナはかつて超音速旅客機を開発していた頃に検討されていたものでエンジンから排出するガスの温度さえ高くなれば良いとの発想からバイパス側を加熱する方式である。ターボジェットと逆に比較的温度が低く、V形状のフレームホルダでは燃焼を安定させることが難しく、燃焼器と同じような複雑な形状の保炎器が必要であり、今日では採用されている機種はない。

 ターボファン・コアフローアフターバーナはエンジンのコア部(タービン排気流)のみに対してアフターバーナを作動させるものであり、ターボジェット・アフターバーナにバイパス流れが付加されたようなものである。ターボジェットと同様にアフターバーナの作動性は良い一方、ターボジェットの様にアフターバーナを作動させずとも燃費に優れており、バイパス比の非常に小さなエンジンに採用されることがある。但し、ダクト冷却に対するバイパス流との関係からアフターバーナ温度について制限がある。

 ターボファン・セパレーテッドアフターバーナはダクトバーナとコアフローアフターバーナを組み合わせたような形状であるが、コアフローアフターバーナの作動により、幾分ダクトヒータよりバイパス側を作動させることが容易である。イメージとしてはダクトヒータの複雑な燃焼器を廃しつつも、より多くの未燃の酸素が流れ込むバイパス流をアフターバーナ作動させより大きな推力増加率を狙う良い所取りである。この未燃酸素を有利に使用するためにバイパス比の比較的大きなエンジンに採用されることが多い(F110、RB199等)。

 ターボファン・ミクスドアフターバーナは今日最も幅広く採用されている方式であり、バイパス流とタービン部から排出されたガスを混合させ、そのガスに対してアフターバーナを作動させるものである。バイパス流の低温空気もタービン部の空気と混ざることで高温になり、アフターバーナを作動させ易い条件が揃う。F100等幅広く採用されている。ミクスドアフターバーナのフレームホルダのバイパス側をやや上流に設置することで、セパレーテッドアフターバーナになるが(図5)F110のようにお互いの作動を助け合う場合もあり、機械的に区別することは難しい。

 

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図5 F110のフレームホルダ部

 

 以上、今回はアフターバーナの簡単な歴史と原理、構成品と構成について述べたが、次回は実際の機種・構成品について適用されている技術について考察を行う。(つづく)

 

 

参考文献

 航空エンジン事業部「アフターバーナの基礎研究」、石川島播磨重工技報、1970

 船木他「アフターバーナの研究(第1報)から(第3報)」、防衛庁第3研究所技報、1975

 佐藤他「最近のジェット・エンジン アフターバーナ技術(1)」、航空技術No.360